ホワイトハウス工事差止め(National Trust for Historic Preservation v. United States et al, No. 1:2025cv04316 - Document 60 (D.D.C. 2026) について)
- M.I
- 4 日前
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日本でも報道されましたが、トランプ大統領が進めていたホワイトハウスの宴会場の改修工事について、ワシントンD.C.の連邦地裁は、改修工事につき差止を認めました。日本ではなかなか認められにくいタイプの裁判だと思います。大統領に権限があるか等の実体判断もさることながら、日本では、そもそも、訴訟要件をクリアーできないと思われ、この点からも、大変興味深いと思いました。
原告は、National Trust for Historic Preservationといって、歴史的遺構を保存するためのTrust、非営利団体で、イメージとしては環境団体などに近いでしょうか。(被告は、JESSICA BOWRON, DOUGLAS BURGUM, DEPARTMENT OF THE INTERIOR, GENERAL SERVICES ADMINISTRATION, NATIONAL PARK SERVICE, MICHAEL J. RIGAS, JOHN STANWICH, DONALD J. TRUMP)
日本の行政事件訴訟法や民事訴訟法、判例に照らすと、環境団体等には、通常、原告適格(行政事件訴訟法9条1項・2項)は認められません。米国の行政法においても、一定の司法審査を受けるための適格要件が求められますが、日本よりは緩やかだと思われます。例えば、環境団体のような団体の被侵害利益については、団体内のメンバーが原告適格要件を満たし、保護されようとする利益が当該団体の目的と関連するのであれば、適格要件が認められるとされています(Hunt. v. Wash. Apple Advertising. Commission, 432 U.S. 333(1977))。
本件は、(preliminary) injunction(差止め)であり、そのためには、要件の一つとしてirreparable harm, すなわち、回復不可能な損害の要件が必要ですが、その要件判断につき、メンバーの一人であるAlison Hoaglandが要件を充足することにより、National Trust for Historic Preservationも適格要件が認められると判断されています。すなわち、Hoagland教授は、長期間にわたってD.C.の住人であり、歴史的遺構の保全についての教授であるところ、定期的に大統領官邸を訪れて歴史的な建物やD.C.を形成してきた“L’Enfant Plan”の美観(景観)を享受してきており、また、ウオーキングツアーを実施するなどしていることから、ホワイトハウスが解体されることにより、その美観(景観)についての利益が毀損され、その利益は回復不可能であるとされています。
日本でも、鞆の浦世界遺産訴訟(広島地裁平成21年10月1日判決)で、一定の歴史的・景観利益は法的保護に値する個別的利益に該当するという点は認められましたが、今回のホワイトハウスのような事案でも当てはまるのか微妙と思われます。また、当てはまるとしても、利益が侵害される住民が帰属する団体にまでは、訴訟の適格要件(厳密には、日本における原告適格要件と異なるところがあるため、このような言い方にします)は認められないのではと思われます。我が国の民事訴訟法において、原告適格を拡張する考え方のひとつとして任意的訴訟担当の理論がありますが、そのような理論を背景とした紛争管理権説を彷彿させるところもあります。これは、講学上、訴訟提起前の紛争の過程で相手方と交渉を行い、紛争原因の除去につき持続的に重要な役割を果たしている第三者は、訴訟物たる権利関係についての法的利益や管理処分権を有しない場合にも、いわゆる紛争管理権を取得し、当事者適格を有するに至るという考え方です(最二判昭60・12・20参照)。理論上の問題はさておき、やはり、米国の司法判断は面白いと思いました。
法律の話とは離れますが、決定文中に“I must therefore GRANT the National Trust's Motion”や、“After all, the White House does not belong to any one man-not even a president!”等、太字や感嘆符などが使われていて、この当たりも日本の裁判所の判決(or決定等)文には見られない面白さかなと思いました。
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