シェブロン法理とLoper Bright事件
- M.I
- 4月11日
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米国行政法においても、行政庁には「行政裁量」が認められています。
日本の行政法における「行政裁量」とはやや異なる趣もありますが、この行政裁量については、かなり長い間、いわゆるシェブロン法理により、行政庁には広範な裁量が認められる傾向にありました。しかしながら、2024年6月のLoper Bright事件、Loper Bright Enterprise v. Raimond, No.22-451,603U.S_(2024)における連邦最高裁の判断により、行政庁の裁量の幅は狭められ、司法審査が厳格化することになったと考えられます。
日本の行政事件訴訟法30条に対応するのが、米国行政法(Administrative Procedure Act”(APA)”)706(2)(A)です。(5U.S.C. 706(2)(A))。同条は、The reviewing court shall-「hold unlawful and set aside agency action, findings, and conclusions found to be—」[(A)arbitrary, capricious, an abuse of discretion, or otherwise not in accordance with law;]としています。厳密にいえば、行政事件訴訟法30条そのものとは同じではないのですが、”an abuse of discretion”、すなわち、裁量の濫用があれば、裁判所は効力を否定することができるとされています。
この点で、ランドマークとなったケースが、1984年のシェブロン事件、Chevron U.S.A. Inc. v. Natural Resource Defense Council, Inc., 467U.S.837(1984)です。
このシェブロン事件では、大気浄化法、Clean Air Act of 1963( “CAA”)に関し、汚染源を意味する”source”の文言について、環境保護庁(Environment Protection Agency, “EPA”))の行った解釈が、法律の規定に反するものであるとして争われました(紛争当事者が企業(Chevron)と環境団体(Natural Resource Defense Council)になっている点については、訴訟経過を辿っていくと興味深いものがあります)。同判決の中で、連邦最高裁判所は、①問題となった特定の論点について議会が直接言及していたものであり、議会の意図が明確であった場合、その意図と整合しない行政庁の判断を排除される、②特定の論点について、議会の意図が明確でない場合または曖昧である場合には、行政庁の解釈が許容できるようなもの(permissible)である限り、司法権は、その行政庁の解釈に譲るべきであるという趣旨を述べ、本件で、議会の意図は明確でなく、EPAの規則は、許容されるべきものであると判断しました。以後、この考え方はシェブロン法理と呼ばれ、かなり広範な行政庁の裁量、解釈権を認める根拠とされてきました。
しかしながら、2024年6月、海洋漁業局(National Marine Fisheries Services)が、Maguson-Stevens Fishery Conservation and Management Act(“MSA”)に基づいて公布した規則の内容が争われた 上述のLoper Bright事件において、連邦最高裁判所は、文言が曖昧であるという理由だけでは、司法審査が行政庁の解釈に譲るべきではなく、また、司法審査に当たっては裁判所はあらゆる法の問題を審査すべきとするAPA§706とも適合しないことから、シェブロン法理は見直されるべきであるとして、事件を破棄差し戻ししました。
このようなことから、今後は、行政庁の裁量、権限は狭められ、司法審査がより厳格化していくと思われます。トランプ政権の動向もあり、特定の行政庁については、この傾向が強くなる可能性があると思われました。
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